歯の健康情報Q&A
日本トゥースフレンドリー協会事務局長
(
社)宮城県歯科医師会会長 吉 田 直 人
歯を失う原因の9割以上は、むし歯と歯周病です。
最近の歯科医療の進歩は、目覚ましいものがあります。むし歯は、一度なってしまうと自然治癒はないというのが多くの皆様の常識ではないでしょうか。実は、むし歯の初期段階(脱灰)においては唾液に含まれているリン酸やカルシウムによって歯が自然に修復(再石灰化)されることが分かってきました。また、歯周病についても、歯周病の原因菌が糖尿病、心臓血管疾患、老人性肺炎、低体重児早産、骨粗鬆症など全身の病気と深い関係にあることも最近の研究で明らかになってきました。
この様に歯科医療も日進月歩です。そこで、今回は歯科に関するさまざまな質問をQ&A形式でお応えしていきたいと思います。
Q1【歯石】
歯石は、家庭でも簡単にとれますか?
また、歯科医院で取ってもらう場合、保険が適用になりますか?
A 適切な歯みがきが十分されていて、歯垢がよく取り除かれていれば、歯石の進行も遅くなります。しかし歯石は、石灰化しているので簡単に完全に取り除けるというものではありません。特に歯肉にかくれた歯石は、家庭でのブラッシングで完全に取り除くことはまず不可能です。歯石は歯周病の大きな原因のひとつです。半年に1度は歯科医院で取ってもらうといいでしょう。むし歯がなく歯科医院に行く機会のない方も、歯周病は自覚症状が出てからではかなり進んでいる場合がよくあります。定期的に検診を受け、歯石があれば除去しておくといいでしょう。歯石の除去は保険適用です。
Q2【歯と全身病】
むし歯が全身の健康に悪影響を与えることがありますか?
A むし歯は、全身の病気と関連することが報告されています。特に小児の慢性微熱、リュウマチ性疾患、腎炎、などは最近注目されています。
長期にわたってむし歯を放置し、歯ぐきが慢性的に化膿している場合などは、特に要注意です。化膿した毒素を含んだ細菌を長く口の中に持っているわけですから体にいいわけがありません。
バランスの良い食事をとることは健康の基本です。口は食べ物を取る入り口、つまり健康の入り口でもあるわけです。
Q3【間食】
むし歯になりにくい上手なおやつの与え方を教えて下さい。与える時間もむし歯に関係ありますか?
A 歯垢のpHが5.5以下に低下するとエナメル質が溶け、むし歯発生のきっかけとなります。3度の食事の時には歯垢のpHは5.5以下に低下しています。ところが、食事の度に歯が溶けてしまったらすべての歯垢の下にむし歯が発生してしまうことになります。なぜそうはならないかというと、この時、歯垢の中にしみ込んだ唾液によって歯垢中の酸が中和され、pHが再び上昇するとエナメル質にリン酸カルシウムが再沈着して歯が修復され、すぐにはむし歯の発生にはいたらないのです。
すなわち、3度の食事の間に、むし歯にならないように歯を修復している時間があるわけですから、この時間に歯垢のpHを低下させるようなおやつを頻繁に与えると、歯が修復できず、ついにはむし歯になる可能性がおおきくなるわけです。ことに、唾液の量が著しく少なくなる睡眠の前に、甘いものなどを食べると歯垢のpHが上昇しなくなりますから、むし歯ができてしまう可能性が著しく高くなるわけです。
Q4【むし歯】
むし歯にはどうしてなるのでしょうか? そのメカニズムを教えて下さい。
A 砂糖などを摂取すると、歯垢中に生息する細菌がこれを分解して酸に変え、歯垢のpHを低下させます。そこで、歯垢のpH(約
Q5【ブラッシング】
歯磨きの上手な方法、ポイントを教えて下さい。
A 歯磨きは短時間ではその効果はあまり期待できません。そこでおすすめしたいのがながら磨きです。テレビを見ながら、おふろに入りながら、時間をかけて行うことがポイントです。一見行儀が悪そうに思えますが、歯周病の予防や治療にも効果的な方法です。歯ブラシは大きく左右に動かすのではなく、こきざみにふるわせて磨く、ふるわせみがきが効果的です。歯垢を落とすためには歯の面に対して歯ブラシの毛先を直角にあてることがポイントです。また歯と歯の狭い部分は、歯ブラシで取ることは困難です。デンタルフロス(糸ようじ)を使うとよいでしょう。具体的なブラッシングの方法、デンタルフロスの使い方は、一度かかりつけの歯科医院で指導を受けるのがよいでしょう。
Q6【歯ぎしり】
歯ぎしりで悩んでいます。何かいい方法はありませんか?
A 歯ぎしりは、いくつかのタイプがあります。歯科医に検査してもらい噛みあわせの調整などの適切な治療を受けるとよいでしょう。バイトガード(スプリント)というマウスピースのようなもので治療する方法もあります。治療方法は、その人の症状などにより様々です。かかりつけの歯科医に相談してみて下さい。
Q7【歯周病】
歯周病とはどんな病気ですか?
また自覚症状はあるのでしょうか?
A 歯周病は、歯そのものではなく、歯周組織(歯を支える組織)に炎症を起こし、組織を破壊します。その結果歯が抜け落ちてしまうのです。
歯肉に炎症を起こしたとき、歯肉炎と呼ばれます。この段階では歯根膜や歯槽骨の損傷は起きていません。やがて、歯肉炎が歯周組織の中に広がったとき、歯槽骨の喪失が起こります。この時点で、歯周炎と呼ばれます。つまり、歯周病とは歯肉炎と歯周炎の総称なのです。
また、歯周病は、初期の段階での自覚症状はほとんどなく、自覚症状が出たときには相当進行していることが多いのです。40歳以上では、むし歯よりも歯周病で歯を失うのです。定期検診を受けて予防・早期治療に心がけて下さい。
Q8【歯周病】
歯周病の原因を教えて下さい。また炎症はどのように広がるのでしょうか?
A 歯に付着しているプラーク(歯垢)が主な原因です。プラークは細菌の塊で、その細菌は唾液中にみられ誰でも持っているものです。特に嫌気性グラム陰性菌が関係しています。プラークが付着すると、その中で毒素が作り出され、歯肉に進入し炎症が起こるのです。
炎症は、歯肉が腫張し、歯肉と歯との隙間(サルカス)が深くなり、ポケットが形成されて炎症が深部へと拡がっていきます。歯根膜が壊され、歯槽骨が喪失し始めます。やがて、歯根の上に硬い黒い歯石がついてきます。治療を受けないでいると骨の喪失が進み、歯根の先端までの歯周組織が失われて歯が動揺し、やがて歯は脱落してしまいます。
Q9【顎関節症】
口を大きく開けると痛く、噛むときにポキポキと音がします。歯科医院で顎関節症と言われましたがどんな病気なのでしょうか? また肩こりとも関係ありますか?
A 顎関節症は、むし歯・歯周病とならぶ歯科の3大疾患の一つです「噛むときポキポキ・コキコキなど音がする、口が大きく開けられない、顎が痛い」これは、顎関節症の3大症状です。その他、頭痛・肩こり・目の疲れ・耳鳴りなど全身に悪影響を引き起こすことがあります。この病気は、噛み合わせの狂いが原因です。また、ストレスが関係していることも分かってきています。
車のタイヤの空気圧のバランスが悪いとハンドルが右や左にぶれやすく、音がきしんで出てきたり落ちつかないのと似ています。噛み合わせのバランスをうまくとると軽減します。
Q10【顎関節症】
顎関節症の原因・予防法を教えて下さい。
A 顎関節症の主な原因は、不正咬合、つまり歯の不良な咬みあわせ、そしてストレスによるくいしばりです。なぜ不正咬合が生じるかというと八重歯やラングイ歯のような歯並びの悪さ、あわなくなった入れ歯など様々な要因が考えられます。その他、むし歯のため片方の歯でしか噛まない片がみのくせや、歯が抜けたまま放置した場合なども不正咬合を生じます。きちんと歯科治療・定期検診を受け健康な歯の状態にしておくことが顎関節症の予防にもつながります。