初めに神は天地となった。地は混沌、天は闇の輝きに満ち神の霊がすべての内と外を満たしていた。神は自らに呼びかけ自ら応える。
「我は光」
こうして、光があった。光となった神は、自らを見て良しとした。神である光は、自らによって輝く闇を光と闇に切り分けた。昼と夜、そして時の始まりである。
光があり闇があった。第一の日である。
神は自ら、すなわちすべてに呼びかけ自ら応えた。
「我は大空。水の内で大空となる」
神は、大空の上と下で水となった。
光があり闇があった。第二の日である。
神は自ら、すなわちすべてに呼びかけ自ら応えた。
「天の下の水は、一つ所に集まる」
そのようになった。大地と海の始まりである。大地と海、すなわち神は、自らを見て良しとした。
大地となった神は、自らに呼びかけ自ら応えた。
「我は草。種を持つ草と果樹は、大地に芽生え命を繋ぐ」
そのようになった。大地は、命ある神すなわち草と木に覆われ、それらの神は種によって命を繋いだ。大地と草木、すなわち神は自らを見て良しとした。
光があり闇があった。第三の日である。
天となった神は、自らに呼びかけ自ら応えた。
「我は天の輝き。我が光は地を照らし、昼と夜、季節を分かつ」
そのようになった。神は、二つの大きな輝きと無数の小さな輝きとなって自らすなわちすべてを照らし始めた。すべて、すなわち神はこれを見て良しとした。
星があり朝陽があった。第四の日である。
神は自ら、すなわちすべてに呼びかけ自ら応えた。
「水と大空は我が命で満ちる」
すべて、すなわち神は水に群がるもの、うごめく生き物、また翼ある鳥となった。これら命あるものと命を産み出し育むすべて、すなわち神はこれを見て良しとした。
すべてと命、すなわち神は一つとなって自らに呼びかけ自ら応える。
「我らは命。命は殖えて神を満たし、神は命を満たす」
星があり朝陽があった。第五の日である。
大地となった神は、自らに呼びかけ自ら応えた。
「我らは地を覆う命。地を這うもの、地の獣」
そのようになった。大地と地の命、すなわち神はこれを見て良しとした。
地の獣のうち、最も霊が啓けているのは人であった。すべてを満たす神の霊は、人の内で目覚めすべてに呼びかける。
「我は人。神は人の内で目覚め、神を見る。人は、神すなわちすべての名を知る」
神は、人となった。
人は神の霊で目覚めた。
男と女は、神の霊に目覚めた神、すなわち神である神、神を見る神となった。
人とすべて、すなわち神は自らを祝福し呼びかけた。
「すべての命は神を満たし、命は神で満ちる。命は神。命は神に生まれ、神の霊に生き神へと還る。我は海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物すべてとなる」
すべて、すなわち神は自らの呼びかけに自ら応えた。すべての内に神の応えが響く。
「大地は種を持つ草と種を持つ実をつける木で命を育む。人、地の獣、空の鳥、地を這うものなど、すべての命ある神は大地の草木、すなわち神により生きる」
そのようになった。神は自ら、すなわちすべてのものを見た。それは、極めて良かった。
星があり朝陽があった。第六の日である。
神は天地万物になった。第七の日に、神は自らを休めすべてが神を包み込んだ。この日に神はすべてのあるものに包まれて安息を得たので、すべてのものと時、すなわち自らを祝福し聖なるものとした。
すべてである神は、自らを楽園としすべての命あるものを包み込んだ。人は霊によって神を知り、楽園で生きたがその霊によって他のものを従える事はなかった。すべてのものは祝福され、互いに高めあい呼びあっていたからである。
神である野の生き物のうちで、最も賢いのは蛇であった。蛇は、自らの賢さを見て言った。
「我は賢い。地は我によって支配され、我は天に昇るべきである。」
蛇は、自らの内の神を見つけ言った。自らの賢さのみを誇る蛇の内で霊は目覚めず、すべてを満たす神を見ることも感じることも出来なかったからである。
「我こそ神。我の他に神はなく、我こそがすべての主である。今こそ我はすべての上に立とう」
蛇が地を従えて天に昇ろうとした時、蛇の前に人が立った。霊に目覚めた神、すなわち人は蛇の内に神を見出し言った。
「神よ、あなたを蛇と呼びましょう」
神と呼ばれた蛇は、人の内に神の霊を見出すこともなく応えた。
「我は神、万物の主である」
神の霊、すなわち人はすべての内と外に神を感じながら言った。
「神よ、神の内に主はなくすべては神で満ちています」
蛇は、人の言葉を妬んで言った。
「それは違う。我こそが神。我の他に神はない。我は賢さによりそれを知る」
人は、蛇の言葉に霊ではなく自らの賢さによって答えた。
「どうすれば、あなたのように賢くなれるのですか」
蛇は、自らの内から木の実を取り出し言った。
「これは善悪の木の実。これにより、お前は善悪を定める主を知るであろう」
人は、蛇から木の実を取って食べた。人の霊は眠りにつき、蛇の善悪が神を見えなくする。
「私に善を与えしあなたこそ、主」
人は、天に昇って行く蛇を仰いで言った。
その日、風の吹くころ、人はすべてである神の内で神に呼びかけた。人の霊が神と呼びあったためである。
「我が神、どこにおられるのですか」
すべて、すなわち神は応えた。
「汝の内と外、すべてに」
しかし、すでに人は霊によって神の応えを理解することが出来なかった。蛇の善悪では、神を知る事が出来なかったためである。人は、重ねて問う。
「私は、すべてを切り分けその名を定めましたが、あなたはおらずあなたの名もなかった。あなたは空なのですか、大地なのですか、あるいは岩、鳥なのですか」
すべて、すなわち神の応えが人の内に響く。
「我はあるもの、すべて」
自らの内に響く神の応えを理解できない人は、さらに問う。
「わかりません。あなたの名、そしてあなたがおられる場所を教えてください。私はそこを楽園と名づけるでしょう。」
すべてが人を包み込み、語りかけた。
「我はある。汝自身にして、あるものすべて。我が名を求める者に我は聞こえず、我が場所を求める者に我は見えない。霊と智慧により生き自らを知る時、汝は神であり神を知る者となるであろう」
人は、神の応えを理解できず自ら楽園を忘れ去った。楽園中に、神の内に、人となった神の絶望の叫びが響き渡る。
「我が神、なぜ私を見捨てたのですか。ここは神のいない絶望の園。私は、神の楽園を探しに行きます」
こうして、人は楽園を忘れ去った。楽園に生まれ、楽園に生きながら楽園を求めてさ迷う者となったのである。
人が神と楽園を忘れ去るのを感じた神、すなわちすべては言った。
「人は、霊ではなく善悪によって神を切り分けた。人が智慧を通して霊を知り、智慧と霊によって神を見る時、人である神は再び楽園に生きるものとなるであろう」
蛇は、楽園に人が見えなくなると言った。
「人は、神を切り分け楽園を去った。我も、すべてを高いもの、聖なるものとするこの楽園を去ろう。我のみが高くなり、人から崇められるように」
自らの内に響く蛇の声に応えて神は言った。
「高き者、神よ。汝はすべてが高いこの楽園ですべてと共に生きるより、汝のみが高い地獄で人を従え生きるのか」
しかし、この神の応えが蛇に届くことはなかった。すでに蛇の目にはすべてである神は見えず、蛇の心に神の応えが響くこともなかったからである。
自らを高めるのではなく他のすべてを貶めることで高くなろうとした蛇は、神のすべてを妬み呪った。
「我は主。我のみが高く聖い。すべてのものは我の下、我の僕となる」
人は、蛇の呪いに応え自らを呪った。
「主よ、我を造り生かす主よ、私は主の僕です」
蛇は、人に言った。
「我は、すべての地を人に与える。地を従えよ。地は人に従い、人は我に従う」
こうして、神の楽園は蛇と人の地獄となった。
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