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「浅い眠りに陥った。
最初のうちは酔っぱらったような感じだった。
寝入ることで世界の固さが眠りの軽さの前に屈服するように
思われた。この皮肉な気楽さはなにひとつ改めはしなかった。
欲望の烈しさは、一種投げやりなかたちで中断されはしたが、
それを苦悩状態のなかに閉じこめる抑制から解放されて再び
甦るのだった。
ところで眠りに陥ることはおそらく勝利の失敗した姿であり、
そこではわれわれの奪い取るべき自由が覆い隠される。崩壊
した蟻塚のなかの蟻そっくりに、右往左往して逃げまどう私
は、いかなる得体の知れぬ戦慄の犠牲に捧げられたのか。
ひとつひとつの挫折は、この悪夢の世界では、それだけで、
完全な死の体験である。」
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