虫明康人著

   電波とアンテナのやさしい話

       超ブロードバンド化の原理の発見  (20018月 オーム社発行)

  Explanatory stories of electromagnetic wave and antennas
           by Yasuto Mushiake

(本書第6章中の、第61節の内容と、第62節以下の節名だけを紹介する)

第6章 創造的研究と社会


6・1 
創造的研究とは

 科学技術の分野における研究において、「独創的研究」という用語がしばしば使われてきたが、その意味についての理解は必ずしも同一ではなく、人によって異なるようである。
 例えば、独創的研究とは、いままでに得られた種々の知識を組み合わせることによって生まれるものである、という説があったことを記憶している。このような考え方もあり得るとは思うが、これでは、今までに得られている知識群の中に含まれていなかったような、まったく新しい知識を創り出すような研究は、「独創的研究」から除外されることになる。
 本書でこれまで述べてきた内容は、まったく新しい知識を創り出した研究と、その成果に基
いて展開された一連の研究についてであるので、ここではこのような研究を、「創造的研究」と呼ぶことにする。
 一般に、科学技術の研究という以上、その結果には、何か新しく進歩した所がなければならない。しかしその進歩には、従来の知識の延長線上にある漸進型の進歩と、一つの新しい突破口によって創り出される飛躍型の進歩とがある。前者は努力型の研究を弛まず続けることだけによって達成できるであろうが、後者は努力の上に更に鋭い閃きが必要である。
 何れの場合においても、それらの進歩には、従来の知識と比較した進歩の度合いにより、創造度ともいうべき尺度が考えられる。併しその尺度は、評価をする立場によって大きく異なるであろう。
 例えば、真理を探求する科学の立場、物を造る技術の立場、発明家の立場、などがあるが、何れの場合においても、夫々の立場から見た影響力の強さと波及効果の大きさなどが、創造度の尺度として考慮の対象となるべきであろう。所がその際、本来の立場と無関係な立場での影響力とか、波及効果などが、尺度として誤って流用されることが無いとはいえない。
 例えば、経済効果の極めて大きな優れた発明でも、学術的には、必ずしも優れた研究であるとは限らないし、また、宝探し的調査によって得られた貴重な知識についても、同様なことがいえる。
 このほか、マスコミその他を利用した、大衆人気的インパクトとか、線香花火的インパクトなどの大きさも、学術的な創造度の尺度となるかどうか問題であろう。これらの例のような場合における正しい尺度は、当然、本来の立場におけるインパクトでなければならない。このような観点から、著者の行なった自己補対アンテナの研究の、学術的な創造度の位置付けをしておきたい。
 この研究を簡潔に表現すると、次のようになる。すなわち、この研究は、八木・宇田アンテナの設計法の研究中に派生した研究であって、電磁波の学術的な分野における創案を行なうことによって、新しい原理を発見した一連の飛躍型の創造的研究である。
 そして、その成果は、アンテナの超広帯域化のためのまったく新しい突破口を形成し、大きな影響力と波及効果をもたらすに至った研究であって、全体として飛躍型の一連の創造的研究である。しかし、今振り返ってみると、それらの一つ一つの研究成果による飛躍の中でも、最も創造度の大きい飛躍は、何と言っても、最初に得られた研究成果の飛躍であった。それは、著者が未だ東北大学の大学院学生であった
1948 に行なったもので、自己補対構造の創案とその定インピ―ダンス性の発見である。その具体的内容は、第5章、特に第5・4節で述べたとおりである。

以下、節名だけを記す

6・2 日本の社会に受け容れられない創造性

6・3 学術上の「対数周期」と商品名の「対数周期」

6・4 創造的研究成果に対する致命的な誤解と曲解

6・5 競争社会に向かない創造的研究

6・6 若過ぎた研究者の早過ぎた創造的研究

創造的研究を虐げ駆逐する不公正行為


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